神経ブロック

疼痛管理(ペインコントロール)には全身的なものと局所的なもの、またはその合わせた併用療法がある。ここでは局所の神経に麻酔をかけ、痛みを消す『神経ブロック』について記載した。

硬膜外麻酔法

硬膜外麻酔法は脊髄~脊髄神経根自体を直接、神経麻酔薬でブロックする方法。伝導麻酔でもっとも正確な鎮痛が得られる本手技は、後肢等の手術における鎮痛効果が大きい。硬膜外に投与する薬物は『局所麻酔薬』『オピオイド』等がある。局所麻酔薬ではその部位以降に分布する知覚神経+運動神経+交感神経をブロックできる。オピオイドでは交感神経、運動神経へはブロック作用がない(つまり知覚神経のみ)。

投与部位は第7腰椎と仙椎間にある腰仙椎間の部位を触診およびレントゲンで確認後、剃毛および消毒を施し、滅菌グローブを着用し、スタッイレット付き硬膜外針で黄靭帯を穿刺し、10秒間おく(脳脊髄液逆流がない事の確認)。そして1mlの滅菌生理食塩水をツベルクリンシリンジを用いて硬膜外へ注入する(抵抗感がないことの確認=抵抗消失法)。それらに異常がない事を確認した上、1分かけて薬剤硬膜外注入を実施する(この時間は急速注入による血圧低下や心拍数低下を起さないため)。薬剤の神経内流入は重力によっておこるため、片方の足の手術を行いたい場合、その足を下にした横臥位で本手技を実施すると良い(片側鎮痛)。また左右均等に実施したい場合伏臥位で行うとよい

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顔の神経ブロック法

下歯槽神経ブロック

下顎骨の内側窪みの部分にロピバカイン7.5mg/mlを生理食塩水にて希釈し25Gツベルクリンで術前投与する。顎骨切除や下顎の手術の時に行う。

眼窩下神経ブロック

上顎神経ブロック

オトガイ神経ブロック


前肢の神経ブロック

腋窩腕神経叢ブロック

腕神経叢

○概要

*ブロックされる神経:

 筋皮神経、橈骨神経、正中神経、尺骨神経

*上腕遠位の手術

*肘や前腕の手術の術後補助鎮痛

*0.25%ブビバカイン0.3ml/kg


○禁忌

*局所麻酔アレルギー

*注射部位の感染

*神経損傷

*血管損傷

*胸腔穿刺

*気胸

*片側横隔神経麻痺


○準備

1.滅菌手袋

2.消毒用アルコール

3.注射器

4.エコー針

5.局所麻酔薬

6.神経刺激装置


○基礎知識



○手技

・エコー法

仰向けにして神経ブロックする対象の腕を外転させ脇を開く。

胸郭と腕の間に出来た腋の窪みに体軸に対して平行にプローブを当てる。

腋窩動脈を探し、見つかったら胸筋と腋窩動脈が共に映る部位を探す。

その画面が出せたら頭側からエコー針を刺し、腋窩動脈周囲にある腕神経叢周辺域に局所麻酔を投与する。





後肢の神経ブロック法

神経束内ブロック

本方法は神経の部位に対する方法ではなく、手技そのものの名称で穴。

手術中に、切断を要する部位の神経の束に23~25G注射針を用いて直接、局所麻酔薬を注入し、術後の疼痛を消失させる方法。 使用する局所麻酔薬は0.5%ブピバカイン0.4ml。注入後10分程度してから注入部位で神経を切断する。

大腿・伏在神経ブロック


概要

*ブロックされる神経:大腿神経、伏在神経

*股関節より遠位の手術

*膝の手術の術後補助鎮痛

*坐骨神経ブロックと併用で大腿中部以下の下肢の麻酔

*0.25%ブビバカイン0.1-0.2ml/kg


禁忌

*局所麻酔アレルギー

*注射部位の感染


準備

1.滅菌手袋

2.消毒用アルコール

3.注射器

4.エコー針

5.局所麻酔薬

6.神経刺激装置


基礎知識

 大腿神経は腰神経叢の中でも最も太く、第2〜4腰椎から出てくる。腰筋と腸骨筋の間を尾側に向かい走行し、鼠径靭帯の下を通って大腿動脈すぐ横に沿って足に入っていく。鼠径靭帯付近で大腿神経は浅枝と深枝に分岐し、浅枝は感覚神経として、深枝は運動神経として機能する。


手技

・エコー法

後肢内側を走る伏在神経をブロックする方法。横臥位に保定し、大腿部内側の大腿三角のわずか頭側に鼠径靭帯と平行にリニアプローブを当てる。超音波画面の向かって右側が外側、左側が内側(尾側方面)になるようにあて、大腿動脈を確認する。大腿動脈から画面向かって右側(上記の外側)に向かう大腿動脈から分岐した浅腸骨回旋動脈(プローブに並も並走)が見える。その直下に大腿神経は高エコーの楕円形の物体としてみえる。大腿神経を見失わないようにプローブを僅かに頭側に走査し、浅腸骨回旋動脈が画面から消失+大腿神経は見える場所を探す。その画面が見つかったら頭外側からブロック針を入れていき、大腿神経周囲に局所麻酔薬を投与する。これに対し、大腿三角の遠位にプローブを当て、縫工筋+大腿動脈+内側広筋の三角形に囲まれた伏在神経に局所麻酔を投じれば伏在神経ブロックとなる。



伏在神経ブロック
伏在神経ブロック

・ランドマーク法

大腿骨中央部を剃毛消毒する。恥骨筋と大腿骨内側上顆の中間にある縫工筋と薄筋の間の筋溝を触知する。針先を大腿骨近位に向け、、大腿骨の骨軸から5度傾け、伏在神経を覆っている浅部筋膜を貫通する感触を得るまで1~2cm穿刺する。穿通感を感じたら、さらに2~3cm針をすすめ、吸引(血液が入ってこない事を確認)後、、針を少しずつ引き戻しながら注入する。 使用する局所麻酔薬は0.5%ブピバカイン0.4ml/kgの1/3量。

 

○合併症

・血腫

・局所麻酔薬中毒

・感染

・痙攣

・転倒

坐骨神経ブロック(脛骨神経&総腓骨神経ブロック)

・エコー法

○概要

*ブロックされる神経:坐骨神経

*膝の手術、脛骨の手術、足根の手術

*0.25%ブビバカイン0.1-0.2ml/kg


○禁忌

*局所麻酔アレルギー

*血管誤穿刺

*神経損傷


○準備

1.滅菌手袋

2.消毒用アルコール

3.注射器

4.エコー針

5.局所麻酔薬

6.神経刺激装置


○基礎知識

 


○手技

・エコー法

神経ブロックを実施する方の後肢を上に向けて保定する。

触診にて坐骨結節と大腿骨頭大転子を確認、その2点を起点に遠位に三角形を描いた部位の点にプローブを大腿骨と直交するように当てる。大腿二頭筋がプローブ側に確認できる。大腿二頭筋と内転筋と半膜様筋の三つの筋肉の隙間に2つの低エコーの丸が確認できる。

坐骨神経が確認できたらエコー針にて坐骨神経直近に針先を送り局所麻酔薬を投与する。

・ランドマーク法

大腿部の尾側中央を剃毛消毒する。大腿二頭筋と半膜様筋および半腱様筋の間の筋溝に親指を押し入れ、他の指で大腿二頭筋を大転子と膝蓋骨の中ほどで把持する。そして親指をさらに深く押し込み、大腿骨尾側を触知する。スタットレイト付きの脊髄針を大腿骨に垂直に尾側から頭側へ穿刺し、針先が大腿骨尾側骨幹にあたるまですすめ、当たったら大腿二頭筋を把持している指を少しゆるめ、1cm程針を引き戻してからスタットレイトを抜く。針先から皮膚刺入部までの距離を10分割し、針を少しずつ抜きながら吸引し、血液の戻りがない事を確認しながら薬剤注入の作業を繰り返し行う。使用する局所麻酔薬は0.5%ブピバカイン0.4ml/kgの2/3量。