脳神経疾患検査法

脳神経疾患は一方向からの検査視点での診断では診断クオリティーに限界があるため、下記の検査をいくつか組み合わせて病気を検出します。来院された時の様子と、発症時期や症状によって、獣医師がどの検査が適切か判断し、飼い主に説明した上で進めていきます。

1:身体検査

まず全身の異常がないかを詳しい問診(飼い主にどのような異常か)を聞き、現在その子が置かれている全身コンディション(例としてBCSや意識レベル等)を丁寧に分析し、的確な診断スケジュールをたてます。

2:神経学的検査法

この検査項目の中で実は最も重要なウェイトを占めるのがこの神経学的検査法。MRI画像診断やCT等に診断をゆだねる傾向が見受けられますが、画像診断は100%の情報をもたらしてくれるとは限りません。例として脳血管疾患では脳血管イベントから間もない時は画像に影出されないこともあります。またそれら画像診断は細胞レベルの変化はとらえられない事もあります。そのため、全身に表している異常を神経学的検査法で正確に病変部位を特定し、それに他の検査を合わせて総合評価する必要があります。

3:一般血液学的検査

脳神経疾患は全身から二次的(続発的)に発生することがあります。例としては心原性脳梗塞や肝臓疾患から起こる肝性脳症、腎疾患からおこる腎性脳症等です。神経学的検査法で神経疾患と特定できても、また画像診断から脳病変が発見されても、その他の脳へ影響をあたえうる要素を全て把握しないとなかなか治りが悪かったり、または使用する薬物の安全性に問題がでます(たとえば腎臓に頑張らせる薬品を使用しなければ治せない脳疾患等)。その子の治療を安全にゴールへ導いてあげてこその治療ですから本検査は治療開始段階と経過の時期把握しておきましょう

4:レントゲン画像診断

脳神経疾患においてレントゲンが確定診断となることは稀です。なぜならレントゲンは骨のようなものとその他を識別するのが得意な検査ですので、神経という細い繊維の集まりはレントゲンでは映りませんん。ただし、脳外傷(頭蓋骨骨折)や脳に近い頸椎のトラブル、脊椎の配列、背骨の骨折等、最低限のクリニカルチェックとして必要です。

5:超音波画像診断

超音波画像診断は4のレントゲン診断と比し、軟部臓器等を非侵襲的に(皮膚を切ったりせず)、視覚的にとらえることに向いている検査です。仮に血液検査で腎臓が悪そうと数値が出ていても、それが炎症なのか、腫瘍なのか等の鑑別は不可能です。そこでそもそも今、異常が出ている所がどのような外観をしているか、またはどのような内部構造をしているかを見極めることが出来る検査です。ただし白黒であるため色合いまでははっきりわからないところと、レントゲンやCTと比し、一回に見れる視野が狭い、骨のような密度が濃く硬い物質が手前にあると、その奥がはっきり見れない等という特徴もあります。脳神経疾患では頭蓋骨の穴(大泉門)や側頭部の骨が薄い部位、後頭部の頭蓋骨の切れ目からアプローチして脳内のコンディションを把握するように使用します。大泉門からのTCD(経頭蓋骨カラードプラー検査)は脳室に水が溜まる水頭症の簡易診断に優良です。後頭骨Viewの脳底動脈のRI比は脳圧の診断に向いています。また脳や脊髄から派生した神経線維を映し出し神経線維の炎症等によるニューロパシーの診断に使用します。また脳梗塞等の時には心臓から内頚動脈に血栓が形成されているケースも多いため、溶解療法を施す前のリスクマネージメントとしても血栓の有無の確認を超音波ドプラーで確認をとりましょう。

6:心電図検査

脳は心臓から上行大動脈を経由して血液を送られているため、脳神経疾患治療においては心臓コンディションの把握は必須です。またある種の脳圧降下薬はうっ血性心不全(心臓病で血液が心臓に鬱滞してしまう病気)がある子への使用は注意が必要です。

7:眼底検査

『眼は脳の窓』といわれるように眼のチェックは脳神経を扱う獣医師にとって欠かせない検査である。対光反射や眩惑反射や威嚇瞬き反射といった神経学的反射や綿球落下試験といった視覚確認試験は神経学的検査法であるが、それと別に眼底鏡で眼底部にある視神経乳頭や血管系等を確認する事で脳の異常があるかの確認をする。一般に視神経乳頭浮腫は脳のイベントを示唆するが、脳疾患発生から視神経乳頭浮腫が発生するまでには時間差があるためそれを把握しておくべきである。

8:CSF(脳脊髄液検査)

血液検査の項で述べたように、脳は全身を駆け巡る血液とBBB(血液脳関門)で仕切られているため、脳内イベントをしるうえで特異度に欠く。それに対し、脳内を循環している体液である『脳脊髄液:CSF』の変化を調べる事は脳の変化を把握するで重要である。具体的には以下のデータを参照してほしい。

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CSF検査
獣医神経病学会
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9:EMG(筋電図)検査

全身の筋肉は神経から発される電気によって縮んだり伸びたりしている。その神経と筋肉のリンク活動状態を調べる検査。そこに描出される波形は、重症筋無力症やDMの診断に有用である。

10:CT検査

Computed Tomography(コンピュータ断層撮影)の略。空気を-1000HU(Hounsfield Unit)、水を0HUと透過率を規定し、それをCTnumber(CT値)とする。空気はCT値が最も低く、骨や金属は最もCT値(数百HU)が高い。一般に軟部組織は20~70HUである。高CT値は白く、低CT値は黒く映る。使用する光線はレントゲンと同じくX腺であるため、四肢の静脈からヨード造影剤投与(おもにオムニパーク)による血管の描出(CECT)も可能である。

11:MRI画像診断

核磁気共鳴画像法の略。超伝導電磁石の原子核(ほぼ水素)に対する反応を画像化している。骨の影響が少なくため、骨に包まれている脳の詳細を画像化するには向いている。しかし急性脳梗塞の診断等には劣るという特徴もある。

12:遺伝子検査

脳神経疾患の中で、近年遺伝子がその発症に関与している疾患がいくつか見出されている。それら遺伝子の把握は交配の上で重要である。

13:自己抗体検査

神経疾患のうち、本来自分を守る免疫により自分を誤って攻撃してしまう病気が人と同様、ペットにもあります。症状、年齢、動物種等を総合的に評価し疑われる自分を攻撃する抗体が作られていないか検査します。この検査は主に脳脊髄液内、または血液内を採取し実施します。

14:神経筋生検

ある種の末梢神経疾患また筋肉に異常がある疾患では血液やMRI,CTでは診断に至らない疾患もあります。鎮静化で切除しても生活に異常をきたさない神経と神経を選び病理組織検査することで治療法を確定することができるケースでは実施をお勧めします。